大学でお世話になっている曽我部昌史さんに招待状をいただいたので,9月11日に横浜市のアートイベント「黄金町バザール」のオープニングへ行ってきた。神奈川大学の曽我部研究室とマチデザインの丸山美紀さんが,会場のひとつである「黄金スタジオ」を設計したのである(SDレビュー入賞)。黄金町周辺といえば,あの黒澤の「天国と地獄」でも,犯人の山崎努がうろつくやばい町として出てきた程で,つい最近までたいへん荒れた風俗街であった。それを地元住民と横浜市,神奈川県警が協力して,ここ数年かけて違法な風俗店をようやく一掃した。
挨拶した中田宏横浜市長(右写真(横浜市HPより)。まだ43歳!)の話では,ここに至るまでにもたいへんな苦労があったようだが,さて,これからの街をどうするのか,ということで,アートを新しい街の核にしようというのである。なかなか野心的な試みである。 高架上の京急黄金町駅から地上に降りると,その高架下の空間は,占拠されるのを恐れているのか延々と高い仮囲いで覆われている。黄金スタジオは木造片流れ屋根の平屋建築で,その仮囲いに割り込むかたちで,8スパン分の空間を占める(右写真(公式HPより))。内部の面積は300平米くらいか。表側?は道路を挟んで大岡川に面している。この川は幅も水面の高さもほどよいスケールで,街の風景の核となるポテンシャルを感じた。春は桜がきれいらしい。高い壁面をステンレスに覆われたスタジオは,1スパンごとに大きな出窓を川へ向けていて,内部の活動を見せる川沿いのショウウィンドウになっている。 当日はしまっていたがステンレスの壁の一部は開口になっているようでもあった。裏にまわると,片流れ屋根の低い側がガラス框戸の開口面で路地から自由に入れるようになっている。中は建物の端から端まで土間になっていて,その奥にアーティストのスペースが昔の商家の「ひろま」のようなかたちで一段高く面している。プランもつくり方もいたっておおらか?だが,まあそのくらいがこの場所にはちょうど合っているかもしれない。建物の両面をインターフェースの質を変えつつ,どちらも表として取り扱う意識は,この場所の読み取り方としては至極まっとうで好感が持てた(この点,鉄骨フレームとガラスで(この種の建物としては)丁寧に構成し,中二階にデッキを這わせ,正統的な建築をやっている飯田善彦氏による日ノ出スタジオとは対照的で面白かった)。しいて難癖をつけるとすれば,土間が道路面から段差があってあまり気軽に入れない感じがしたこと,それと,内部の幅が少し浅くなってもいいから,できれば軒を出して,路地から内部,そして反対側の道までもう少しスムースにアクセスできるといいと思った。あとは,今後できるなら,仮囲いを侵食してどんどん長くしていければ面白いだろう。 曽我部さんの建築は,自邸も以前みせてもらったが,どう考えればいいのか,なかなか手ごわい。建物が建物だけで読みとられるのを望んでいない感じというか。もちろん現実の目的なしに建築行為は始まらないわけで,曽我部さんの建物がもっている,現実や要求に対する素直さには共感できるし,その素直な対応は曽我部さんの建築に対するリアリズムの現れだと思うのだが,では,建物がそこでの活動や出来事のノンフィクション,あるいはドキュメンテーションなのかというと,それほどの重さを建築に期待していないようなそぶりも感じる(もちろん最近多いフィクショナルでキャッチーな構成による表情とは全く異なる)。むしろ,そういう真のリアルさは,そこでの人々の活動としてこそ現れ出るべきであって,建築というのはその背景でよいと考えているのかもしれない。もしそうなら,その考えには賛成できるのだが,一方で,かつてジャッドなどのミニマルアートが,ある意味では作品を背景にして観客を対象にしてしまうという転回をやったときに,それはリテラル=自明的でシアトリカル=演劇的であり,作品にはそれ自体で作品となるべき「自律性(形式性?)」が必要なのだ,という批評があったのをふと思い出した。樹木や太陽の動きなどには,人間とは関係のない独自の原理が存在している。建物が本当に人々の生活のリアルな背景になるためには,逆説的だが,そういうものに似たある種の独自な「自律性」も少しは必要なのかもしれないとも思った。といってもその自律性をどこに求めるべきか。様々な事象をひっくるめて自律性が成り立つか成り立たないか,ぎりぎりのところを曽我部さんは探っているのかもしれない。(N)
by nodesignblog
| 2008-09-16 02:40
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