浜辺のレンタルショップ兼盆踊りヤグラ(その2)

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浜辺で風と涼を得る、ささやかな日影の居場所を提供する「一枚の屋根」。とはいえ同時に様々な用途要求に応えるため、いろいろと工夫した。構成はいたって単純で、約1.5間角のシンプルな屋根プレート、斜交柱、約1間角の床、そして可動式の壁パネルである。屋根プレートと床は平面的にみて45度振り、ちょうど屋根に床が内接するかたちになっており、床からはみ出した屋根4隅の部分は開閉式の三角庇になる。また壁パネルは折り畳み式で可動する。これらにより5種類の「モード」に変形し、浜辺の多様な活動をサポートする。

まず、三角庇と壁パネルをすべて閉じるとほぼ完全に遮蔽された箱になる。レンタル・ショップの閉店時や悪天候時には、内部に用具を収納し保護する高床の倉庫となる(右上写真:ボックス・モード)。次に、三角庇を持ち上げてロッド支柱で支え、陸側の壁パネルと扉を開くと、ショップの小屋になる(前回写真:ショップ・モード)。ショップの対敵は砂と波である。小屋内に砂が入ると用具が砂で擦れて傷つきスチールなどはすぐ錆びる。また高波対策は床を上げることに尽きる。スタッフが床上に上がると砂も入りやすくなるので、今回は床をさらに上げて棚状とし、そこに人が入るスリットを開けた。海からの風を抜きつつ砂が入り込むのを防ぐために、海側の壁パネルは普段は腰壁状に閉じ、陸側だけを開き貸出作業用の台として使用する。

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レンタル・ショップ以外に、もっと人が直接使うことも想定している。ボックス・モードから三角庇や壁パネルを一部だけ開き、床のスリットをパネルで塞ぐと、日影で海を眺められる心地よい2畳サイズのキャビンになる(右上から2番目*、下写真*:キャビン・モード)。しかも海からの風が小さな開口部で圧縮されて吹き抜け、とても気持ちが良い。僕もベラさんと二人でしばらく過ごしたが、冷たい飲み物でも楽しみながらゆっくりくつろげる。ちなみに海外のビーチをみると日本のような大きな海の家はほとんどなく、むしろ小さなキャビンが建ち並ぶ風景をみかける。集団でワイワイやるのもいいが、こうした小ぢんまりしたキャビンで海を味わうのもよいものである。

さらに、壁パネルを全開にすると、斜交柱に沿った形状がまるで花びらのように開く(フラワー・テーブル)。花びらひとつひとつが小さなテーブルとなって人々が集い、中央の床スリットから飲み物をサーブすれば、ドリンクバーのように使える(右下から2番目写真*:ドリンクバー・モード)。

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そして盆踊りのときには、ヤグラになる(右下、上写真:ヤグラ・モード)。ただしこのヤグラになるときにはさすがにそのまま上に人が乗るわけにはいかず、手すりや階段、支柱の追加等が必要だったが、学生数名による半日の現場施工で済むように工夫した。上述したように、人が中の床上に立たないこととしたので、ヤグラの高さは約2300程度に抑えることができた。またいかにもヤグラらしくなってしまう隅柱を避けて、斜交柱にこだわった結果、人が踊る舞台だけが砂浜に浮かんでいるイメージがほぼ実現できた。また通常ヤグラの上にも提灯を吊るフレームが檻のように組まれるが、ここでも隅柱を避けて、中心に支柱を建てるだけのシンプルなものとし提灯は手すりに取り付けた。その結果、舞台と砂浜との一体感が増した。7月中旬に開催された「浜の盆踊り」はすばらしい盛り上がりであった。周辺住民のみなさんが砂浜に集まって、ヤグラを中心に踊る。脇の海の家では盆踊りを眺めながら人々が休んだり寛いだりしている。水平線が見え夕日が美しく、暗くなると提灯の光が溢れてときどき波音も聞こえる。

こうした圧倒的な場所の魅力、集まった人々の熱気のなかでは、所詮建築といってもたかが知れているなーと感じたが、しかし同時に―これはずいぶん前に仮設劇場(ベセトシアター)のときにも感じたことだが―、そうした場所の魅力を人々に気付かせ、かつよい関係でつなぐことができるのは、広い意味での建築的な行為なのだということも改めて実感した。それは家具かもしれないし小屋かもしれないし建築かもしれないが、プログラムや活動とは異なる、ある環境に潜む人の居場所(=ノルベルグ・シュルツがいう「定位」が近いかも)を発見し引き出すことなのだろう。今回の小屋はごくちいさなものではあったが、そうした居場所を発見し、提案できたと感じることができた点では、大きな収穫があったし、いわゆる海の家的なものとは異なった浜辺の楽しみ方のモデルとして展開できる可能性も感じることができた。そして参加した学生たちも本当によくがんばったと思う。

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(謝辞)今回私たちの提案をご理解いただき実現する機会を与えてくださった松石健宏さん(鎌倉中央海水浴場組合長 / 海の家ASIA)に深く感謝いたします。また構造上の助言を下さった田畠隆志さん(ASD)、施工のアドヴァイスをいただいた木村健児さん(ウッドマジック)、真島辰也さん(ワークス)、施工期間中多大なご協力をいただいた高橋浩司さん(鎌倉市議会議員)、写真家の鳥村鋼一さんはじめ、ご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。(N)  (*印写真:撮影:鳥村鋼一)
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by NODESIGNblog | 2015-09-02 16:32
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