富久町の家(その1)

2013年に実施し、とある財団から賞をいただいた「富久町の家」についての解説が、今年度の神奈川大学「工学部報告」という冊子に、「木造住宅の改修に関する実践的研究」として掲載されている。一般にはあまり接することのない冊子なので、ここにも載せておくことにする。

1.はじめに
日本の大都市部には、現在でも密集木造住宅地が少なからず残されている。そこに建つ古い木造住宅の多くは居住性や耐震性などに問題を抱えているが、敷地条件や居住者の諸事情等により、大規模な改修や建替えが難しい場合も多い。また既存建物それぞれで異なる複雑な状況や、多様な要望への細やかな配慮を必要とするリノベーションでは、設計と解体、施工が分離された従来の建築業態ではうまく対応できないケースも多い。そこで本研究は、既存建物の特色をできる限り活かした、柔軟な住宅リノベーションのあり方について、デザインと実施手法の両面から探るため、現実の木造住宅の改修計画を通して、以下の課題の有効性を検証することを目的としたものである。その課題は主に、1)光と風を取り込む開放的な「インナー・オープンスペース」の導入による、既存建物を活かした内部空間の居住性の向上、2)身の丈に合った現実的な耐震補強方法の実践、3)設計、解体、施工を一体的に実践し得るセルフビルド的手法の実践、の3点である。以下では、対象建物と研究概要に続いて、これらの課題に沿って説明する。

2.対象建物と研究概要
実施対象としたのは、東京都新宿区富久町の密集木造住宅地内に建つ古い木造住宅である。もはや当時の図面や書類は存在しないので建物の履歴等は不明だが、現時点でわかる限りでは、遅くとも昭和38(1963)年には建っていたようであるから、少なくとも築50年以上は経っている。元の建物は間口3間(5.46m)、奥行3.5間(6.37m)、建築面積10.5坪(約35㎡)の平屋だったようだが、その後2階や浴室等が増築され、現在は総2階建て、床面積21坪(約70㎡)の建物となっている(下図)。間取りは、1階に6畳と4.5畳の畳間2室と台所、トイレのほか、浴室があるが脱衣室はなく、隣接する台所の一部をカーテンで仕切るようになっていた。また2階には4.5畳2室と3畳1室の計3室のほかにキッチンと和式トイレがあり、間貸しできるつくりになっている。今回の計画は、この物件をいわゆる「古家付土地」として購入した60才台の夫婦のために、より住みやすいかたちにリフォームすることであった。まず、神奈川大学工学部建築学科中井研究室注の大学院生が中心となって、2013年2月に現地調査および設計案作成を行い、それを踏まえて2013年3月から5月にかけての約3か月間、同研究室大学院生および学部4年生が主体となって現場解体および施工を実施した。なお、浴室、キッチン等水回りの改修、および一部の複雑な造作については専門業者へ依頼した。
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3.インナー・オープンスペース
敷地は南東側4m、北西側2mの2面接道であるが、周囲の住宅含めて建ぺい率が高く(既存不適格)、高齢者の主な生活の場となる1階が暗くなりがちなので、2階にふんだんに差し込む日照を1階にまで導けないかと考えた。またご主人の趣味はラン栽培などの鉢植えであり、とくに冬場はそれらを室内に置く場所が必要である。こうした問題を踏まえて方針を検討し、また、基本的に夫婦2人の住まいなので、2階を3つの小部屋に細かく分けておく必要もあまりないと思われたため、2階南側2室の間仕切りと床を撤去し、吹抜けとして1階へ採光することを考えた。しかし単なる吹抜けにすると床面積が減りすぎ、また1階の天井も高くなりすぎると感じたため、30×60mmの角材を25mmのスリットを空けて並べたスノコ床とし、1階へと自然光を導きつつ、普段は物干し場、冬場に鉢植え置場にもなるサンルームのような、光と風を取り込む開放的な半屋外的な空間=「インナー・オープンスペース」とすることを考えた。2階の元の部屋は押縁天井など和風の仕上げだったが、光を溜め込み反射させるため、壁も天井も白く塗り込めた(下写真)。スノコはバルコニーまで連続し、屋外まで連続するデッキのような広がりを持たせた。また、薄暗かった1階北側のキッチンまで日光が届くように一部分は吹抜けとしたが、既存の根太は残し、将来スノコ床を張り延ばすことも可能とした。インナー・オープンスペースは、3方向に窓のある、広くて明るく風通しのよい空間で、スノコの床には縁台のような開放感がある。2階北側の薄暗かった納戸のような部屋にも南側からの光が届く。
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1階の畳間は、2階の白い空間とは対照的に、木軸架構の色合いを活かした木質系の仕上げとした(下写真)。1階南側の畳間には、天井のスノコのスリットから柔らかな自然光が降り注ぐ。北側のキッチンにもインナー・オープンスペースを介して日照が得られ、南側2階を見上げると窓から空が望める。また1階全体の見通しがきくように、中央の押入れを撤去しピアノ置き場とした。そのほか施主の要望に沿って、台所の一角に脱衣室を新設し、浴室床をかさ上げして居室床との約30cmの段差を解消、さらにキッチンの改修などを行った。以上のように、2階にインナー・オープンスペースを導入し、既存建物の木軸架構を活かすことにより、主な生活の場である1階にも自然光を導き、住空間全体がつながった、快適な居住空間が実現できた。
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(つづく)(N)
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by NODESIGNblog | 2015-03-08 00:37
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